ツユモシラズ

世間のことなど露も知らずに生きる、井の中のオタクのブログ。コメント等、お気軽にどうぞ。     https://twitter.com/shirazu41

【シャニマス】杜野凛世Landing Point編に魅了されたオタクの怪文書

はじめに

 お久しぶりです。ツユモです。

 

 今年も上半期が終了し、いよいよ夏真っ盛りですね。

 『アイドルマスターシャイニーカラーズ』では約2ヶ月ほど前からGRAD編に続く新シナリオ・Landing Pointがユニットごとに続々と実装され、プレイヤーの皆様はコミュを追うのに忙しい今日この頃かと存じます。

 

 かく言う私もここ数ヶ月、イルミネ・アンティーカのLP編シナリオの完成度の高さに感動したり、まさかの千雪さんブライダル実装に動揺したり、シーズ初イベントである「ノーカラット」の無慈悲さに絶望するなど、慌ただしい毎日を送っておりました。

 

 さて、そんな中とうとう実装された杜野凛世さんのLP編ですが、その感想を綴っていく前に少し余談から。

 

 ちょっと深刻な話になってしまうのですが……

同日実装された【キング・アンド・ヒーロー】のイラスト良すぎません!?(大声)

 

f:id:shirazu41:20210718173333p:plain

▲浴衣三つ編みおさげドヤ顔眼鏡凛世の破壊力

 

 いきなり眼鏡凛世を直視したらあまりの可愛さにオタクたちが衝撃に耐えられないから、いったんスマホの写真加工による擬似的なメガネ装着によって目を慣らしてあげようという配慮が感じられますね…

 

 おかげでなんとか心肺停止で済みました。

 果穂さん夏葉さんも可愛いし、こんな素晴らしいイラストを無料配布するシャニマスってほんとに良いゲームですね……(昇天)

 

 

 そんな傷も癒えぬ中はじめた杜野凛世さんLP編でしたが、今までの凛世コミュと少し雰囲気の異なる、大変興味深いシナリオでした…!

 

 もちろん毎回恒例のプロデューサーとの胸キュン要素もありつつ、鶴に虎、はたまた幽霊や、謎のルー大柴風舞踏家まで登場する、要素盛りだくさんでいつも以上に解釈の難しい内容だったな、というのが第一印象です。

 

 そして何より感じたのが今回のLP編は、「アイドル・杜野凛世」としての新たな出発点である一方、「恋する少女・杜野凛世」としての着地点(=Landing Point)としての意義が込められている、ということでした。

 

 正直まだまだ咀嚼しきれていない箇所も多く、杜野凛世学会に在籍する有識者の皆様のご意見を待ちたいところですが、まずは個人的に抱いた感想や考察をいつものごとく綴っていこうと思います。

 

■今まで本ブログで書いたシャニマス関連の記事はこちら。

shirazu41.hatenablog.com

shirazu41.hatenablog.com

shirazu41.hatenablog.com

shirazu41.hatenablog.com

 

 

第一章 アイドルとしての再出発

 今回のLP編では凛世の、アイドルという「芸事」に対する向き合い方への変化が大きなテーマとして描かれていたが、ここではまず、凛世が初めて芸事の世界に触れた幼少時代について紐解いていきたい。

 

  LP編で何シーンにもわたって登場する回想において印象的なのは、母親から日本舞踊の厳しい指導を受ける姉と、部屋の外で折り鶴をしながらその様子を静かに伺っている凛世の対比である。

f:id:shirazu41:20210718174753p:plain

 凛世の姉といえばSSSR【夜明けの晩に】において初めてスポットのあたった人物であり、このときの「凛世が8つの折……遠いところへ……お嫁さんに……」というセリフから、凛世とはおそらく10歳前後、年の離れた存在であったことが伺える。

f:id:shirazu41:20210718174952p:plain

 

 今回の回想の場面において、姉が熱心に稽古を受ける一方、凛世自身が稽古に出る様子が描かれていないのは、やはりこのときの凛世がまだ舞踊を習うには幼すぎたから、というのが大きな要因であろう。

 とはいえ、姉や母が日本舞踊の練習にこれほど熱心に打ち込んでいる家庭であることや、凛世のプロフィールの趣味欄に「芸事全般」とあることから推察するに、おそらくこの回想の場面の数か月後か数年後かは定かではないものの、凛世自身も舞踊の稽古には幾度も参加していたはずである。

f:id:shirazu41:20210718175128p:plain

▲趣味:芸事全般

 ではなぜ、今回ダンスレッスンをきっかけに凛世が想い出す場面は、「姉の姿」ばかりで、肝心の凛世自身が舞踊の指導を受けているような回想は一切出て来ないのだろうか。

 この点に関してだが、凛世はこれまで「芸事とは自分とは違う誰かのものであり、自身は蚊帳の外からその真髄に触れること無く傍観するしかない」という考え方を無意識的に抱いてきたからだと私は考えている。

 

 凛世は由緒正しき家柄で幼い頃から芸事を習い、立派な大和撫子として成長しつつも、その心の奥底にはずっと「舞踊では空が飛べない(から稽古に参加したくない)」と述べた幼い凛世のような想いがくすぶっていたのではないか、という仮説である。

 より正確に言えば、凛世にとって「芸事」とは自分の本心とは異なる巨大で外発的な力によって「何となくやらされている=拒否権無くやらざるを得ない行為」であり、嫌ってはいないまでも、どこか「他人事」に近いことのような感覚を持ち続けてきたのではないだろうか。

f:id:shirazu41:20210718175402p:plain

▲稽古の誘いを断りんぜ

 

 冒頭、千円紙幣で鶴を折る不思議な少女の描写から始まる本作だが、このときの少女の声を凛世があてていることや、「折り紙を楽しむ」という行為の共通性から見ても、この少女は過去の凛世に重なる存在であると言える。

 紙幣とは、誰もが欲しがる高い価値を持った貴重品であることは言うまでもないが、少し詩的な表現を用いるなら、自由に何かを書き留めたり、折り曲げて楽しんだりといった、本来紙として持つはずだった価値を奪われ、貨幣制度という制約によって縛られた「籠の中の鳥」とも言い換えられるだろう。

 そして冒頭で出てきた少女は、金銭という世俗的な価値には一切目もくれず、「本来飛ぶことのない縛られたものが宙を翔けること」を無邪気に喜んでいるが、それはおそらく自身の存在を無意識的に紙幣に重ね合わせた、「自由を手に入れたい」という欲求の裏返しでもある。

f:id:shirazu41:20210718175801p:plain

▲ちなみにこのあたりの文章は、斎藤茂吉の随筆文『紙幣鶴』からの引用である。

 

 かつて、姉から誘われた稽古を「舞踊では飛べない」と凛世が断ったのは、普段から由緒正しき家柄という環境が持つ窮屈さや閉塞感に欲求不満を抱いていたこと、姉が厳しく叱られている様子を間近で見てきたことなどから、「芸事」とはさらに自身を縛りつけてくるような自由の対極にある何かだと幼いながらに感じ取ったからに違いない。

f:id:shirazu41:20210718180346p:plain

 だがもちろん小さな娘が家の風習をいつまでも拒絶し続けることなどできるはずもなく、やがて「空を飛びたい」という欲は少しずつ心の奥へと押し込められていくことになる。そして、特にそのほかの選択肢も与えられないまま、自由とは程遠い芸事の世界に身を置くことを運命として受け入れることで、凛世は成長してきたはずである。

 もちろん現在の凛世が芸事をあからさまに嫌っている描写など無いし、ときおり実家に向けて手紙をしたためる描写などを見るに、今となっては実家での雅な生活をそれはそれで愛おしい思い出として大切にしているのは事実である。

 

 だが、やはり「厳しく叱られる姉」「なぜそんなにも周囲が熱心に芸事に励むのかわからない自分」という幼い頃の回想描写を見るに、もともと凛世にとって芸事とは、本気でのめり込むことのできる夢や青春などではなく、自身が生まれた古きを良しとする家庭環境に順応し、母親から求められる大和撫子でいるための「手段」として始めたことであったということは想像に難くない。

 思い返してみると、凛世がアイドルを始めることになった動機も、「アイドルになりたい」という純粋な夢を叶えるためではなく、自分を新しい世界へ連れて行ってくれる(=空を飛ばせてくれる)プロデューサーという存在の近くにいるための「手段」として必要だったからである。今回のLP編でもそうだが、アイドルとしての凛世がGRAD編からたびたび「欲がない」「パッションが感じられない」という指摘を受けるのも、この出発点の「歪み」に原因があると言えるだろう。

 

 LP編5つ目のコミュ『飛ばせ』において、ダンストレーナーは凛世の弱点について、「自分をどんどん型にはめていってる」「綺麗だね、丁寧だねって褒められることに、ちょっとしがみついちゃってる」と分析している。

f:id:shirazu41:20210718180734p:plainf:id:shirazu41:20210718180754p:plain

 

 凛世はおそらく幼い時分から、母や姉に言われる言葉の意味を理解するより先に、とにかくやるのが当たり前のこととして日本舞踊の厳しい稽古を受けてきたはずである。その結果、確かに美しい所作と技術を身につけることはできたものの、それは自身の内発的な向上心によって得られたものというよりは、厳しい母様に叱られないための誰が見ても完璧な「型」を処世術的に身につけたものという方が近いはずである。

 

 だからこそ、凛世はアイドルになった今も自分を絶対的な正解としての「型」に自分をはめこみ、上達や挑戦よりもとにかく目先の承認の言葉を求める姿勢が抜けていないと指摘されているのでないだろうか。(ダンストレーナーは、これを凛世の抱く「プライド」と呼んでいる)

f:id:shirazu41:20210718180837p:plain

 

 そんな凛世の「プライド」に大きな変化を与えるきっかけとなったのは、『虎と友禅』に登場した「注目のモデル」の存在である。

 のちに登場する舞踏家もそうだが、友禅を着こなし、「和」を体現したような少女である凛世に対し、やたらと英語を多用する破天荒なこれらの人物は、意図的に凛世の価値観を揺るがす対比的な存在として描かれている。

f:id:shirazu41:20210718180948p:plain

f:id:shirazu41:20210718181136p:plain

 

 まずは少しこのあたりのあらすじを振り返りたい。

 ブランドの新作披露のレセプションにて、アイドル代表としてミニコンサートを行った凛世だが、出場者の一人、「ガオ!」を決め台詞とする話題のモデルの圧倒的なカリスマ性に会場の話題は持って行かれてしまう。「芸事は誰かと比べるものではない」と頭では理解しつつも、モヤモヤとした浮かない気持ちを抱えながらレッスンに励む凛世。このとき凛世の心を支配していたのは、モデルに対する嫉妬や焦燥感であった。

 

 さて、凛世が女性に対して「嫉妬心」を抱くコミュというと、1周目PSSR【杜野凛世の印象派】の『drawing2(まどひあか)』が想起される。プロデューサーが取引先の綺麗な女性と親しげに話す様子を見て、凛世が思わずその場を立ち去り、二人が離れ離れになるというコミュである。

f:id:shirazu41:20210718181343p:plain

▲完全に余談だが、個人的にこのときのお相手は善村記者で脳内補完している。

 

 ただ1周目PSSRと比較して決定的に異なるのが、今回のコミュでは、自らと同じステージの上の存在に対し、「アイドルとしての敗北感」から嫉妬を感じている点である。

 【杜野凛世の印象派】では、おそらく仕事の合間、オフの時間に偶然出会った知人女性に対し、プロデューサーを取られたような気分に陥り、その場から逃げるように立ち去り、それをプロデューサーが後から追いかけて探すという構図が取られていた。一方、LP編ではステージ上のモデルに対して、プロデューサーが魅了されたという事実をまっすぐに受け止めつつ、そこから「嫉妬」と「悔しさ」をバネに、個性の強い舞踏家の特訓に食らいついていくさまが描かれている。

f:id:shirazu41:20210718183916p:plain

 これまで自分だけを見つめてくれていたプロデューサーが、一時的とはいえ他人であるモデルのステージに魅了されたことに凛世は大きな衝撃を受けたはずである。なぜなら、幼い頃は自分を縛り付ける枷のようにしか思えなかった「芸事」が、その道を極めることで見るものの心や、世界をも動かすことのできる可能性を秘めた、実は最も自由になるための近道であったことに初めて気がついたからである。

 

 同時に、幼い頃には理解できなかった「頭からつま先まで……全部自分のものになれば、飛べるのよ?」(=芸事を極めれば、自由になれる)という姉の言葉の意味を、このときようやく自分ごととして理解したことだろう。

f:id:shirazu41:20210718184155p:plain

 

 余談だが、「芸事を極める」=「空を飛べる」というイメージは、今回登場した舞踏家の先生にも表現されており、最後のコミュ「舞台」では、飛行機で旅立った先生を「あの方は……空を……お飛びになられますゆえ…」と見送った凛世の台詞にも表れている。

f:id:shirazu41:20210718184304p:plain

▲見送りんぜ

 これまで凛世にとってのアイドル活動とは、プロデューサーのそばにいるための手段であり、【われにかへれ】が印象的だが、ときにはアイドルという立場があるがゆえに思い通りに距離を縮められないという「枷」に感じたこともあっただろう。

 しかし、今回のLP編をきっかけに、「芸事(=アイドル活動)を極める」という行為が、「やらされる、やらざるを得ない手段の一つ」ではなく、「純粋に上達したい=目の前のプロデューサーを魅了したいという目的」に変わり、凛世は芸事の世界に真の意味で足を踏み入れたのである。(=劇中では「舞台の端に立つ」と表現されている)。

f:id:shirazu41:20210718184555p:plain

 

 枷や束縛では無く、むしろ自由である。そんな芸事の真髄を理解した凛世には、かつて芸事を極めてきた人々や、これから極める人々のひたむきな想いが幽霊のように見えてきた、とLP編の最後では締めくくられているが、冒頭登場した幽霊の台詞と思われる「ふふふっ……!」に注目したい。

 

f:id:shirazu41:20210718184630p:plain

 

 短い台詞な上にボイスが無いためどこまで同一性を担保できるかはわからないが、凛世の回想場面で登場する姉がこの「ふふふっ」という言葉をよく使っていたのは偶然では無いと私は考えている。自分よりも一歩早く芸事の真髄を理解し、いつもひたむきに稽古に取り組む姿を間近で見てきた凛世にとって、芸事の探求の概念である「幽霊」の声は、凛世の耳に姉そっくりの声として響いたとしても不思議ではない。

 

f:id:shirazu41:20210718184826p:plain

f:id:shirazu41:20210718184901p:plain

 

 確かに幼い頃の凛世は稽古を受けることに対して消極的ではあった。

 しかし、決して興味を持たなかったり、舞踊を軽んじていたりしたわけではなく、姉が稽古を受けている間も傍を離れず、その様子に聞き耳を立てていた。それは、不器用ながらも必死で空を飛び、景を動かそうとする姉の努力に密かに心動かされ、憧れ、尊敬していたからであろう。今となっては踊りという技術的な面で当時の姉を超えたのはもちろんだが、LPでの出来事を通じて心意気の部分でも追いついたことで、今度は凛世が芸事の探求者として、誰かの心を動かす存在となっていく。そんな未来への希望を感じられる、あたたかな締めくくりであった。

 

第二章 恋する少女としての着地点

 この記事の冒頭、今回のLP編はいつもの凛世コミュとはやや雰囲気が異なるものだった、と述べたが、その要因の一つは登場人物の多さ、そしてそれによるプロデューサーと凛世のやりとりの少なさによるものと言える。

 これまでよくも悪くもプロデューサーと凛世の二人だけの美しくも儚い世界を描くイメージの強いコミュが多かったのに対し、今回はダンストレーナー、舞踏家、注目のモデル、過去回想の母や姉など、プロデューサー以外に、凛世の背中を押してあげたり、変化のきっかけを与えたりする存在が多数登場してくる。

 そして肝心のプロデューサーについては、『飛ばせ』において「その……ごめんな あげられるものが、レモンティーだけなんてさ」と述べている通り、今回は主体的に凛世に働きかける場面があまり無く、テーマである芸事の上達という点においては蚊帳の外にいると言っても過言では無いかもしれない。

f:id:shirazu41:20210718185120p:plain

 

 ここで今までの二人の関係性について改めて振り返ってみると、「大人であるプロデューサーが、アイドルとして羽ばたき始めたばかりのヒナである凛世をサポートし、逆に凛世はそうやってプロデューサーに支えてもらうという行為を通じて、彼の近くにいられることに幸福を感じていた」とまとめることができるだろう。

 そもそも出会いの時点で、自分のハンカチを千切ってまで鼻緒を直してくれたことや、「最高の舞台に連れて行ってみせる」という言葉に心が強く惹かれてアイドルを始めたことからも伺えるが、もともと二人の関係は対等ではなく、プロデューサーが凛世に対して何かを与える、という構図によって成り立っていたのである。

 しかし、【ロー・ポジション】の考察の際にも述べた通り、直近のコミュでは徐々にこの関係性の逆転が見られつつある。

 例えば、最新のPSR【階段式純情昇降機】TRUE ENDでは、仕事で疲れきって事務所のソファで仮眠をとるプロデューサーを起こさないよう、凛世がパンケーキを差し入れするという場面で締めくくられるが、この「疲れて寝ている相手を起こさないように」と気遣う行為は、ファン感謝祭編で見られた、プロデューサーがイベント帰りの凛世に対して行っていた配慮との対比になっている。

f:id:shirazu41:20210718185733p:plain

f:id:shirazu41:20210718185753p:plain

▲感謝祭編ラストのやりとり

 一応今回のLP編でも、寮に到着したが、寝始めたばかりの凛世を気遣ってさらにドライブを続ける、という描写は存在するものの、感謝祭編と異なるのは、目を覚ました凛世がまずプロデューサーに対し謝罪する点である。

f:id:shirazu41:20210718190153p:plain

f:id:shirazu41:20210718190216p:plain

▲LP編でのやりとり

 もはや一方的に支えられる状態に対して心地良さを感じることはなく、段々と「共に支え合いたい」という気持ちが強くなっていき、そして今回のLP編ではむしろこちらが何かを与えたい(=魅了し、支えたい)というところまで凛世の心境は変化しつつある。

 歌や踊りなどアイドルとしての技術的な部分において「優等生」だったぶん、他のアイドルと比べ感情面に関しては比較的未熟に描かれてきた凛世だが、少しずつプロデューサーをも追い越すほどに、大人へと近づきつつあるのである。

f:id:shirazu41:20210718190455p:plain

▲イラスト上も凛世が一歩前を行き、見下ろすような構図が印象的。

 

 もう一つ重要なのは、今回凛世の中に芽生えた「プロデューサーを魅了したい」という想いが、一人の少女としてではなく、アイドルとしての決意表明として発せられている点である。

 確かに『飛ばせ』において、「凛世と……先日のモデルの方………! どちらが……魅力的でございましょう………!」と恐る恐る尋ねた瞬間の凛世の心境には、もちろん少女としての純情も多分に含まれているだろう。

 しかし、その問いに対するプロデューサーの答えを、夜景の見える海沿いという最高にロマンチックなシチュエーションで受け取ってしまうのではなく、答えはステージの後で、と遮ってしまう点であったり、そのライブ当日も、今回はホームでのイベントだからノーカウントである、とアイドルとしてどこまでもストイックな姿勢を見せている点を見るに、モデルに対して、「恋敵」としてではなく「アイドル」として純粋に負けたくないという想いが垣間見える。

 そして、これまで半ば盲目的に信頼を寄せていた、最愛のプロデューサーの「(凛世は)魅力的だよ」という言葉に対し、「嘘で……ございます……」と初めて疑いを向けているのも特筆すべき変化であると言えよう。

f:id:shirazu41:20210718191712p:plain

 

 【ロー・ポジション】TRUE ENDにおいて、アイドルではない凛世、そしてプロデューサーではないプロデューサーを互いの前でさらけ出すほどに距離の縮まった二人だが、凛世は今回、肩書きを伴わない一組の男女として関係性を深めていくことではなく、「アイドルとしての杜野凛世」によって、「プロデューサーではないプロデューサーさま」(=凛世のファンとしてのプロデューサー)を魅了したいと誓う。

f:id:shirazu41:20210718191933p:plain

 

 もちろん、これまで凛世が恋する乙女として抱いてきた「欲しい」という強い純情は消滅したわけでは無い。しかし、少しずつ確実に、乙女としての「欲しい」は、アイドルとしての「欲しい」に昇華されつつある。

 もはや【杜野凛世の印象派】で姿をくらませたり、【われにかへれ】で不貞寝したり、GRAD編で音信不通になったりしたような「恋する乙女としてのわがまま」は見えず、観客の心を虜にする「輝くアイドルとしての強い向上心」が芽生えているのである。

 

 これはある意味、恋人として傍で寄り添い、間近で互いに支え合いながら距離を縮めていく道を自ら切り捨て、これまで舞台袖で見守ってくれていたプロデューサーを観客席まで引きずり下ろす選択でもある。

 すでに彼女の背中を押し、新たな世界を教えてあげる存在はプロデューサーだけではなくなったことが今回のLP編では描かれたが、凛世はこれからどんどんプロデューサーの手を離れ、彼の手には届かないほど大きく空へと羽ばたいていくだろう。そんな美しくも少し寂寥感のある未来を想起させる、一つの「着地点」が今回描かれたと私は解釈した。

 

 ただ、「まだまだ……これからでございます……」と凛世自身述べている通り、そうした未来が訪れるのはもう少し先の話である。

f:id:shirazu41:20210718192441p:plain

 

 今回、凛世はモデルに敗北を味わったり、舞踏家に厳しい指導を受けたりといった試練を経験しつつも、プロデューサーの前では弱音を吐かないように(=「アイドルではない自分」を出さないように)振舞っていた。しかし、プロデューサーはそんな凛世の「無理」に唯一気づくことのできる存在として、その本心に耳を傾けることで、アイドルとして頑張る活力を与えている。

 

f:id:shirazu41:20210718194823p:plain

▲【われにかへれ】の「聞こえたらいいんだけどな」を想起させる言葉

 

 また、このとき「海の匂いがする」という言葉に対して、凛世が「プロデューサーさまの……香りがいたします……」と返しているのは、おそらくGRAD編で海まで迎えに来てくれたプロデューサーとの思い出で胸がいっぱいになっているからであろう。

f:id:shirazu41:20210718192746p:plain

▲GRAD編

f:id:shirazu41:20210718192549p:plain

▲LP編

 これらのやりとりを見ても、やはり舞台の端に立ったばかりの凛世が羽ばたくためには、まだプロデューサーの存在が必要不可欠である。

 そして、たとえこれから「無理」をせずに理想のアイドルとして活躍できるまで成長し、二人の距離が離れることがあったとしても、凛世にとってプロデューサーがかけがえのない人物であることは決して揺るがないはずだ。

 凛世が「アイドルとしてプロデューサーを魅了したい」という決意を固めるこの場面では、彼女がプロデューサーの手を離れ、世界という新たな舞台に立つのを示唆するかのように、旅立ちの汽笛が鳴り響く。

 凛世の成長とともに、二人だけの「放課後」はまもなく終わりを告げるかもしれないが、その最後の一瞬まで、二人の物語を見届けたいと思う。