『【われにかへれ】杜野凛世』が描く青春の儚さと尊さに、奥歯が消滅したオタクの怪文書
はじめに
どうも、ツユモです。
気づけばもう8月も中旬。少しずつ夏が歳をとっていくのが感じられる今日この頃ですね。
こんな短夜の夏は、少しだけ切ない気持ちになれる、美しい物語に浸りたい気分になりませんか? そんな皆様にオススメの作品があります。
それはこちらの、アイドル育成ゲーム『アイドルマスターシャイニーカラーズ』(通称:シャニマス)に登場する、杜野凛世さんのPSSRカード【われにかへれ】でございます!!!
というわけで、今回は昨年12月以来の登場となる、全世界待望の凛世5周目PSSRコミュについて、感想と考察を綴っていきたいと思います。
ていうか、もうコミュとか物語以前に、水着凛世とギャル凛世のイラストが素晴らしすぎて、絵を眺めてるだけで「凛世…(恍惚)」という言葉にならない多幸感で頭と心が満たされてしまい、全く文章が書けなくなってしまいますね…。 ちょっと最後まで書けるか心配ですが、頑張っていきます! 画面の前のみんなは、ミラクルライトを振って応援してください!
そして前回同様、ここからは唐突に「ですます調」をやめます!
※ちなみに前回書いた凛世GRAD編の考察記事はこちら。
第1章 儚きものと美しきもの
まず内容整理のため、今回のコミュのあらすじを簡単にふり返っておきたい。
①夏雲だけを覚えてゐる
ある夏の日、凛世とプロデューサーは、写真撮影の仕事のため海沿いの田舎町を訪れることに。二人きりの旅行という状況に心踊る凛世は、「うつつか確かめたくて」思わず、無人のバスの中でカメラのシャッターを切る。
②むらさき
それぞれ異なる色のかき氷を食べた二人は、互いに鮮やかなシロップの色に染まった舌の色を確認して、微笑み合う。そんな凛世の、夏らしい姿を写真に残しておこうとプロデューサーは提案。同じく凛世も、自分の携帯にプロデューサーの写真を残そうとするが、アイドルの携帯にそんな写真を入れるわけにはいかない、と断られてしまう。
③こもれ 日
土産もの屋を訪れた二人。そこで放クラや寮の皆に加え、プロデューサーにもお土産を贈ろうとした凛世だったが、プロデューサーは気を遣い、「そんなのいいから、そのぶん他の誰かに渡してくれ」と断る。プロデューサーの発言に傷ついた凛世は、宿の部屋に一人籠り、不貞寝してしまう。
④月があたらしい
凛世の写真撮影が無事終了。彼女の気持ちを無視した発言をしてしまったことを謝罪したプロデューサーは、凛世にもっと自分の欲を声に出して、我がままになってほしいという想いを改めて伝える。そのまま凛世の提案のもと、蛍を見に沼に向かった二人は、その幻想的な美しさに息を呑むのだった。
※さらにこのあと、TRUE END「われにかへる」が続くが、いったんここでは割愛させていただく。
「月があたらしい」に顕著なように、本作は今年の5月に実装されたばかりのGRAD編を強く意識した内容となっている。GRAD編における凛世の成長が「自分の欲を出すこと」だったと解釈するならば、本作のコミュで一つのテーマになっているのは、「終わりを受け入れること」ではないだろうか。
特に前半部分において印象的に描かれているのは、「今ここにしかない輝き」をなんとか保存しようとする凛世の姿である。
二人きりのバスの車内や、かき氷を食べたあとに舌を見せるプロデューサーの姿を写真に収めようとしたことも、一緒に旅に同行しているはずのプロデューサーにお土産を渡そうとしたことも、すべて二人で過ごした幸せな時間を、いつか無くなってしまうかもしれない「思い出」などという曖昧なものではなく、形あるものとして残そうとしたがゆえの行動である。
本作でスポットの当たるアイテムが、雲、かき氷、蛍など、いずれも一瞬しか存在できない儚いものばかりで固められていることも、コミュ全体に漂う切なさや、夢のような脆さを強調する役目をもっている。
また、序盤の凛世の「これがまことであることを確かめたくて、撮った」という発言は、Morningイベントのひとつに登場する「夢と知りせば、覚めざらましを」の歌を踏まえたものだと思われる。凛世にとって、プロデューサーとともに過ごす時間は、夢のように幸せだったからこそ、これがあの歌のように夢や幻などではないと教えてくれる、客観的で絶対的な物を求めずにはいられなかったのである。
思い返せば今回のコミュに限らず、凛世は、普段から思い出の品を大切にし、できる限り留めておきたいという精神が強い少女として描かれていたようにも思える。【無敵の証!五紋章!】では、「みんなとの思い出の葉っぱが枯れてしまった」と嘆く果穂に、「押し花」にして保存することを提案したり、【五色 爆発!合宿 クライマックス】では、果穂とともに合宿中に撮った写真を眺め、合宿の終わりを寂しがる果穂に対して「果穂さんには、カメラがあります」と励ましたりもしている。
ここまで言うとやや過剰になってしまうかもしれないが、個人的には、凛世の実家が呉服店であることが、「思い出を形に残すこと」「誰かと共有すること」を愛する彼女の人格形成に影響を与えた可能性は高いと推察している。着物とは、ほどけば布に戻る構造をした衣服であり、古くなっても捨てずに何度も再利用することを前提としている。和の心や昔ながらの知恵を重んじ、普段から和服を着て古風な世界を生きる凛世にとっては、それが物であっても思い出であっても、自分の好きなものがいつか無くなってしまうことや、漫然と消費されてしまうことに、人一倍もったいなさや悲しみを感じるとしてもおかしくはない。
だからこそ、今回の旅で最愛のプロデューサーに、そうした自身が大切にしてきた想いが尽く否定された凛世は強くショックを受け、宿に籠ってしまったのである。(ちなみに、このときのコミュのタイトルが「木漏れ日」ではなく、あえて「こもれ 日」と平仮名で不自然に区切った表記になっているのは、凛世が部屋に「こもる」コミュの内容とかけた言葉遊びだと思われる。)
そんな凛世の考えに大きく影響を与えたのが、終盤の蛍を見に行く場面である。彼女は蛍の光が溢れる夢のような光景を前に、思わず駆け出し、そして「ーしい」と呟く。
自然に考えれば、ここで凛世が発したと思われる言葉は「美しい」であろう。一方で、この場面のコミュのタイトルが、「月があたらしい」であることも見逃せない。ここでの「あたらしい」が平仮名表記になっていることから、おそらくこれは現代語における「新しい」ではなく、古語における「可惜し(あたらし)」と解釈するのが適当だろう。この「あたらし」とは、もったいない、惜しいという意味を持った言葉である。
「愛しい人と二人で、月夜に照らされた水面の中で蛍を眺める」という幻想的な瞬間を永遠に留めておくことができないのが「惜しい」という想いに加えて、そんな儚い一瞬だからこそ「美しい」という新たな想いが湧き上がり、その相反する想いが合わさった名状しがたい感情こそが、この短い「ーしい」に込められているのではないだろうか。
もしくは、この「ーしい」という音は、凛世が自身の気持ちを明言することをためらったが故に漏れた、声にならない声だったのかもしれない。言語化するという行為もまた、一時の目に見えない気持ちを客観的に伝え、保存できるようにしてしまう行為だからである。あえて明瞭な言葉を発さないことには、消えゆくものをありのままに感じ取り、無理に表現して残そうとしない美しさが垣間見える。
前回のコミュタイトルが「こもれ 日」(=太陽)だったのに対して、「月があたらしい」という対照的な表現になっていることも、彼女の心に起きた大きな転機を示唆しているようである。
さらに、こうした心境の変化は、TRUE END「われにかへる」においても提示される。
具体的には、凛世が宿や夏雲に向かって名残惜しそうにシャッターを切りながら、「さようなら……」と別れを告げたり、「夏雲も…覚えていて……くれましょうか……」と、被写体に向かって語りかける場面のことである。
もともと、凛世にとって「写真を撮る」という行動には、2つの意味が込められていた。「消えゆくものを残しておきたい」という過去への固執と、「いま自分が置かれている状況が、夢かうつつか確かめたい」という現実への固執である。
しかし、TRUE ENDにおいて宿や夏雲に語りかける凛世の姿からは、この幸福な時間が消えてしまうことを受け入れ、今しかできない「対話」という行為によって「今」を大事にしようとする想いが確かに感じられる。
コミュの冒頭では、プロデューサーとの大切な時間を「写真」や「お土産」という絶対確実なものにして残せないことに悲しみを感じていた凛世だが、最後にはむしろ、二人の時間を「思い出」や「記憶」といった、儚い、けれどだからこそ美しく尊いものにして心に留めておけることに愛おしさを感じている。もはやそんな凛世にとって、この状況が夢かうつつかなどといった客観的な事象などは意に介さない。最後の「覚えて……帰ります……たくさんのこと……」や「夏雲も…覚えていて……くれましょうか……」という台詞からも、単なる過去や現実に対する固執だけではなく、この先の未来を意識した、凛世の中の前向きな変化を感じ取ることができないだろうか。
第2章 夢の終わり
第1章では、主に「ーしい」という台詞について、凛世の視点からいろいろと考察してみたが、あくまでこれは私個人の勝手な解釈に過ぎない。実際は「楽しい」かもしれないし、「嬉しい」かもしれないし、「悲しい」かもしれない。チエルアルコ風に言うなら、「凛世の気持ちは凛世にしかわからない」のである。
そしてそれは、作中のプロデューサーにとっても同じである。今回の旅において、人の心に耳を傾けることの難しさを改めて突きつけられたプロデューサーの視点から見た「もどかしさ」を端的に示す意味でも、ここではあえて「ーしい」というぼかされた表現が用いられているのだろう。
では果たして、プロデューサーが本当の意味で凛世の想いを理解し、受け入れ、彼女の恋が成就する時はいずれ訪れるのだろうか。
残念ながら今回のコミュを読む限りでは、その答えはNOと言わざるをえない。むしろ、今回出てきた夏雲、かき氷、蛍と同様に、凛世自身の恋もまた、儚くて終わりが近いものという示唆が間接的に与えられたのだと私は解釈した。
まず印象的なのは、「むらさき」というコミュにおいて、凛世とプロデューサーがかき氷を食べ、シロップの色に染まってしまった舌を確認し合うという場面である。それぞれ赤と青に染まった舌を見て、プロデューサーは何気なく「これ、混ざったら紫になるのかな?」と発言する。それに対し、凛世は「紫の舌は恐ろしい」と返す。
一般的な文学風に解釈するなら、「互いの舌の色が交わる」という表現には、官能的な意味が内包されていると読み解くこともできる。これから赤と青が混じること、すなわち凛世とプロデューサーが恋仲になる(もっというと、肉体関係をもつ)可能性を暗に否定した場面にも捉えられるが、シャニマスという全年齢向けの媒体でそこを議論しても仕方ないだろう。
むしろここで注目したいのは、凛世の食べたかき氷の色が「赤」(=紅)であることだ。
紅色といえば、前回のPSSRカード【十二月短篇】において、凛世がプロデューサーのことを想って購入した「カルメン」という名の口紅を思い出させる色である。
【十二月短篇】では口紅、【われにかへれ】ではイチゴ味のかき氷という違いこそあるものの、口元を赤く染めた凛世が、プロデューサーに見せるという姿は大きく重なっている。舌を赤くした凛世が、アイドルという立場を一瞬忘れてプロデューサーの姿を自身の携帯に残そうとしていたことからも伺えるが、凛世がプロデューサーのことを、仕事相手としてではなく、一人の異性として強く意識したときに印象的に使われる色が「赤」なのではないだろうか。だとすると、「赤」とはアイドルではなく、「普通の恋する少女としての凛世」を象徴する色と言える。
一方で、プロデューサーが食べているかき氷の「青」とは、説明するまでもなく、凛世が放課後クライマックスガールズで活動するときのイメージカラーである。つまり、「アイドルとしての凛世」を象徴する色が「青」と言えるだろう。
凛世はこの二つの色が混ざった「紫」に対して「恐ろしい」という表現を用いている。ここで思い出したいのが、WING編優勝後の以下の発言である。
「凛世は驚きとともに、恐ろしさを感じました……
失敗すれば、すべて終わってしまうのではないかと……」
お化けや幽霊さえも恐れない凛世にとっての「恐ろしい」とは、今ある幸福が「終わってしまう」ことに対する漠然とした不安を表す感情なのである。
凛世は、プロデューサーに対してどうしようもないほど大きな感情を抱きつつも、同時にアイドルとして多くの人の心を動かしたいという夢を抱いている。そんな今の状況があまりにも不安定で、永遠に続くものではないことに、無意識に気づきつつあるはずだ。
その凛世自身に「紫は恐ろしい」と言わせ、「赤でやめておく」「青でやめておく」というやりとりをさせたこのシーンは、アイドルとしての夢と、少女としての願望が両立できるものではない(=今ある幸せはまもなく終わる)ことを示唆しているように思えてならない。
また、今回のカードタイトルに使われている「我に帰る」=「興奮状態から醒め、平静の状態に戻る」や、ガシャ画面にも使われている「放っておいて……くださいませ……」という台詞もまた、凛世とプロデューサーの関係の終わりを予感させる。
今回のコミュでは、そんな儚い現実が示唆された一方で、忘れてはならないのが「儚く終わりがあるからこそ、美しくて素晴らしいのだ」という希望も確かに示されていることである。
プロデューサーと凛世の想いが通じ合うことはないかもしれないが、いまこの瞬間「想いが聞こえたらいいのに」と互いに想いあう、美しく、尊く輝く二人の心の動きは確実に存在し、見る者の心を確実に惹きつける。
たとえその恋が「一夏の夢」だったとしても、決して価値のないものなどではない。凛世はやがて恋心から醒め、【われにかへる】のか、想いを伝えたのち失恋するのか、アイドルの道を諦めるのかはわからないが、今回のコミュで「終わり」を受け入れられるようになった凛世なら、どんな結末を迎えようとも、必ず乗り越え、自身の成長に変えていけるはずだ。
シャニマスが「ソーシャルゲーム」という媒体である以上、これからどれだけ深く二人の関係性の変化が描かれるのか未知数ではあるが、私も一人のファンとして応援し、この物語を最後まで見届けたいと思う。
※6周目PSSR【ロー・ポジション】の考察記事はこちら。